記憶のthis and that

記憶のお話。

 

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☆人間は忘却の生き物

  教科書を一度読んだだけで覚えられたらどれだけ楽だろうと思ったことは、誰しもあるはずです。それなのに人間は忘れてしまう生き物。ある研究によると人間の脳は1ペタバイトあるそうだ。HD品質の映像なら13.3年分のデータ量です。映画にすると21万本くらい。これだけの容量があるのになぜ忘れてしまうのでしょう。

 

 それは、脳が生命に関わる重要なことしか覚えないになっているからです。忘れることで重要か重要でないかの判断を脳がしているのです。それに、脳は最もエネルギーの消費する器官です。もしも日常生活の膨大な量を記憶していたら、その記憶を維持するだけでとてつもなくエネルギーを使ってしまって非効率なのです。だから脳は積極的に忘れようとしているのです。簡単に覚えられないのは当たり前といえるでしょう。

  

 それに、すべて覚えてことができるのは、良いことばかりではありません。世の中には、一度体験したことをすべて覚えてしまう記憶障害の方がいます。その人は、勉強が出来てすばらしい人生を送っているとおもいきや、実は、そうではないのです。普段生活をしているとき、勝手に過去の記憶が思い出さ れるのだそう。細部まで覚えているため、その時の感情までよみがえってくる。そうすると、心を落ち着かせて生活をすることができないとのこと。

 

 自分を苦しめる辛い記憶も私たちは、時が経てば忘れてしまうが、そういう方々は、ずっと覚えている。記憶に翻弄されて生きていくことになるのです。そう考えるとこの忘却というメカニズムは生きていく上でとても大切な機能だということがわかるのではないでしょうか。

 

☆記憶の過程

  私たちは記憶するときにどのようなプロセスを辿っているのでしょうか。記憶の過程は、記銘、保持、想起3段階に分けることができる。

 

 それぞれ説明すると、「記銘」は外からの情報を脳が取り込むこと、「保持」は、記銘したものを保存しておくこと、「想起」は、保存していたものを呼び出すことです。たとえば、英単語の意味を脳に記憶することが「記銘」、忘れないように覚えておくのが「保持」、その英単語の意味をちゃんと思い出せるかが「想起」です。

 

 

☆記憶の種類

  記憶は、保たれる時間によって「短期記憶」、「長期記憶」に分けられます。そして、長期記憶も「陳述記憶」と「非陳述記憶」の2種類に分けられます。陳述とは言葉にできるということです。

 

☆短期記憶

  「短期記憶」とは、数十秒から数十分くらい覚えておける記憶のことです。たとえば、友達の電話番号を登録するときに少しの間覚えておくのが短期記憶です。普通、携帯に登録したら忘れてしまいます。夜まで、それを覚えている人はなかなかいませんよね。そして、脳に入ったばかりの情報はすべて最初は短期記憶になります。

 

 そこからフィルターにかけられて、忘却するか中期記憶になるかが決められます。その機能を果たしているのが脳の「海馬」という部分です。「海馬」には、①短期的に記憶すること、②記憶の重要度を判断する役割があるというわけですね。前にも書いたように、脳は積極的に忘れようとします。一時的にしか記憶してくれません。では、記憶したいときは、どうすれば、よいのでしょう。

 

 それは、繰り返し情報を出し入れすることです。繰り返し同じ情報を出し入れすることで、脳は、これは重要な情報だと判断してくれます。そうすると、記憶は海馬とは別の中期・長期的に保存してくれる ところへ送られるのです。一度だけでは、脳はその情報を重要だとは判断してくれません。だから、覚えるためには復習が必要なのですね。

 

 ちなみに、この記憶が別の場所に転送されるプロセスは、眠っている間に起こるといわれています。また、記憶を整理しているときの過程が夢なのではないかと考えられています。ディズニー映画の「インサイド・ヘッド」にはこのプロセスが的確に描写されています。興味がある方は是非見てみてください。

 

☆マジガルナンバー  

  人間が瞬間的に記憶できる短期記憶の限界数を「マジカルナンバー」といいます。今の定説は「4±1」がマジカルナンバーです。この「4±1」は、4個を中心に35チャンクということです。チャンクというのは、かたまりのこと。

 

 たとえば、03- 39xy-24xyの電話番号の場合、10個と数えるのではなく、「03」「39xy」「24xy」の3チャンクということになります。暗記するときには、こういったようにチャンクに分けて覚えるのがコツということ。

 

☆長期記憶

  「長期記憶」とは、長期に渡って覚えておける記憶のことです。長期記憶に入った情報は基本的に消えないとされています。短期記憶で一時保存された記憶が、大事だと判断された場合に長期記憶へ送られます。短期記憶から長期記憶にするには、3通りあります。①強烈な印象なもの②重要なもの③繰り返したものの3通りです。

 

 日本は、英語を話さなくても生きていけるので②命に関わる重要なことと判断されないのです。強烈な印象というのもたくさん作れるわけではありません。ですので繰り返すことが一番現実的でしょう。繰り返していくと飽きが来ますが、飽きが来たらもうそろそろだと思って後一押し頑張ってください。飽きているのに、やり続けると脳は、大事なことだと勘違いしてくれるのです。そうすると長期記憶に移行しやすいのです。「飽き+少し」だと思ってください。

 

☆長期記憶にできるかが鍵

 勉強で大事なのは、この長期記憶にどれだけ入れられるかです。せっかく覚えたのに次の日には忘れている状態では、試験には太刀打ちできません。勉強するときは、本当に自分は覚えたのか、ちゃんと長期記憶に入っているかを確認することが重要です。覚えたつもりが一番怖いのです。それは、どれだけ勉強しても点数が上がらないからです。がんばっているのに成績が上がらないとやる気も起きません。長期記憶にすることを意識して勉強しましょう。

 

☆陳述記憶と手続き記憶

  自転車の乗り方は、一度覚えてしまえば、忘れないのに、勉強の公式、歴史の年号はどうして忘れてしまうのでしょうか。実は、この2つは、記憶の種類が違うのです。イメージや言語として頭で覚えるものを「陳述記憶」といいます。これが勉強の公式、歴史の年号などにあたります。対して、自転車の乗り方は「手続き記憶」といいます。他にも、ピアノの弾き方、運転の仕方などがあります。これらは、脳というより体で覚えたものなのです。そのため、体が覚えているので記憶障害になっても、失われにくいと考えられています。

 

  実は、英語というのは「陳述記憶」と「手続き記憶」の中間的存在なのです。英語を使えるようになるには、暗記だけでなく、体で覚える「手続き記憶」が必要なのです。だから、普段から体を使う聴いたり、発音することがとても大事なのです。

 

☆想起が大事

  ここまで記憶は忘れてしまうと書いてきましたが、最近の研究では違うらしいのです。記憶は脳のどこかに埋まっているけど、なかなかそれを見つける(思い出す)ことができないのではないかと考えられています。みんなが忘れていると思う状況は、たしかに本当に記憶を忘れている場合もあるが、実際は、忘れてはいないのだけれど、どこにその記憶を入れたか思い出せないだけの場合が多い。脳の検索がうまくいっていないだけなのだ。つまり、「想起」の箇所がうまくいっていないのです。

 

 暗記が苦手な生徒に、暗記してくださいというと、覚えることに重点を置く人が多いですが、一番重要なのは、「想起」すること。せっかく覚えてもテスト中に思い出せなければ意味がありません。

 

 記憶は、「記銘」「保持」「想起」のどれかが機能しないと、情報を思い出すことは出来ません。つまり、覚えるだけでなく、この「想起」する練習もしないとテストの点数が上がらないのです。暗記する際は必ず、テスト形式にして、思い出す練習をしてください。そして、注意なのが早く思い出せるように訓練すること。この「想起」、記憶を検索する過程は、練習をしないと衰えてしまうの です。また、テストでは制限時間があるので、早く思い出せないと問題をすべて解くことができません。普段から思い出せるだけでなく、早く思い出せる訓練もしてください。

 

☆保持

  「想起」することはもちろん大切なのですが、実は、「保持」も大事なのです。適切な「保持」期間がないと記憶が定着しません。復習の適切なタイミングは、習った直後、その日の夜、翌日、3日後、1週間後、 2週間後、1ヶ月がよいとされています。思い出せるか思い出せないかのタイミングで取り組むのことが記憶の定着につながります。

 

☆覚えていないの3つの解決策

 

 はじめて知りました → まず短期記憶を

 

 昨日は覚えてたんだけど、今は覚えていない →反復して長期記憶に

 

 ちゃんと覚えたんだけど、今日は思い出せない →想起の練習